構想実現会議とは
こころの健康政策構想会議から実現会議に至る経緯について
「こころの健康政策構想会議」(以下、構想会議)は、遡れば国立精神・神経医療研究センター総長の樋口輝彦先生を座長として2008年度より1年半余りをかけて行われた「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」にあります。ここでは現在の精神保健医療福祉が置かれた状況と問題点を網羅的に明らかにし、今後の望まれる施策が報告されました。厚生労働省の早期介入に関する研究班では、早期治療の実現には精神科医療・保健システムの再編がひつようであること、精神疾患患者のご家族にも早期治療のニーズが強いことを調査で明らかにしたり、英国の実情調査等を行っていました。これらに同行取材したNHKの報道を見た長妻昭前厚生労働大臣が、早期治療におけるアウトリーチ医療や認知行動療法、自殺予防効果に関心をもち、会見の誘いがありました。私たちは、その機会に、当事者家族のニーズに応えることを主軸に考え、現実の精神保健医療の諸問題を、早く、根本的に、大胆に改革する提言をまとめようと考えました。長妻昭前厚生労働大臣に提案したところ、その趣旨に大変関心をもっていただき、5月中に提言書がまとまれば、2010年の臨時国会やその次の通常国会になにかしら反映させることができるかもしれない、とのことでしたので、急いで構想会議発足の準備をすることとなりました。
 2010年4月3日、東京都立松沢病院にて厚生労働大臣、山井前大臣政務官臨席のもと、構想会議発足式を開催するに至りました。発足式冒頭の大臣の挨拶の中で、「是非広く国民的議論の中で御提言をまとめて頂きたく、御願いを申し上げる次第でございます」という言葉に、当事者・家族のみならず専門家も随分励まされました。
 以後2ヶ月間、構想会議は精神疾患を有する当事者・家族の方々とともに、真剣な検討を行ってきました。ご協力いただいた委員は最終的には、当事者・家族委員27人、検討委員・協力委員63人を合わせて90人に上りました。
 提言をまとめるまでに、全体会議は毎週土曜午後、当事者・家族委員会はその他に毎週土曜午前中、日曜午後にも開催、10のテーマ毎に組織されたワーキンググループ(WG)は平日の夜、あるいは土、日にそれぞれ数回の会議とともに、勉強会も行いました。合宿2回も行いました。提言起草委員会は、それに加えて全体会議の後、深夜まで討論しましたし、事務局は会議の記録、会場の準備や後始末、ホームページの内容作成や維持管理を行いました。会議は合計60回を超えます。メールでの委員間のやり取りは数え切れない回数に上ります。主な会場となった東京都立松沢病院のボランティアの人々のご協力は、大変貴重な支援になりました。これらはすべて、手弁当による協力と、時には委員の募金によって支えられたものです。予算がまったく無い条件で行うために、委員の構成は東京および首都圏中心にならざるを得ませんでしたが、北海道、九州、大阪、京都、岩手、長野、静岡から参加いただいた委員もありました。この居住地の偏りが提言の検討に影響しないように注意したのは言うまでもありません。
 そして5月28日に厚生労働省大臣室にて、大臣に提言書を提出することができました。ごく短期間に会議を立ち上げ、提言書作成にまで至ったため、様々なご意見を十分お聞きすることができませんでしたし、報告書間でも用語の違いや厳密には食い違う箇所もなしとしません。これまでに至った経緯をご了解いただければ幸いです。異例なことですが、大臣への提言にまんがによるイラストを挿入しております。これは構想会議の趣旨に賛同された漫画家で、ご自身も統合失調症のご家族をもつ中村ユキさんが、執筆で超多忙の中を何よりも優先して、しかもまったくのボランティアで執筆していただき、構想会議にご提供いただいたものです。この漫画によるイラストは、提言が広く国民の方々にも理解いただき、ご支持いただく大きな力になると思います。
 翌5月29日、大臣への提言書提出の報告を全体会で行い、構想会議は解散となりました。しかし、構想会議の議論のなかで、改革を実現するためには法律の制定が必要不可欠であるという結論に達しました。そのため構想会議の委員を中心に、精神保健医療改革を実現させ、「こころの健康保持および増進のための精神疾患対策基本法(仮称)」の制定を目指そうという意見が大きくなり、「こころの健康製作構想実現会議」を立ち上げることになったものです。
 皆様ご存知のように、7月11日の参議院選挙の結果、衆参ねじれ国会となりましたため、法律制定は難しいのではと心配致しました。しかし、参議院選挙のマニフェストには多くの政党が精神保健医療改革を重要な政策として位置づけました。したがって、国会請願への署名活動を行い、精神疾患を有する当事者・家族・専門家だけでなく、広範な国民の要望を伝えることができるならば、超党派での法制定を進めることができるのではないか、その可能性があるのではないかということでした。そのため実現会議では、構想会議の提言書を普及するとともに、こころの健康推進の基本法制定を求める「100万人署名」に取り組むことに致しました。また、この壮大な目標ではすでに構想会議の委員だけでは不可能ですから、委員も10倍くらいの「1000人委員会」として、構想会議の提言に賛同し、提言の普及と基本法制定を求める 100 万人署名活動の推進にご協力いただける委員を広く募ることにしました。
 10月3日の「こころの健康製作構想実現会議」主催の国民フォーラムでは、藤村修厚生労働副大臣やその他各党より多数の国会議員、地方議員の皆様方のご臨席をはじめ、500名近い方々にご参加いただきました。この日より来年3月末を目指した署名活動がスタートいたしました。皆さまの熱いご支援をお願いするものです。
現代日本社会は、「働き盛りの死因第1位をしめる“自殺”、育児の困難を象徴する“虐待”、家庭で出口が見えない“ひきこもり”や“ドメスティック・バイオレンス”、学校で対応を迫られる“不登校、いじめ”、急増する青少年の“薬物汚染”、職場で増加を続ける“うつ”、悲惨な事故を引起す“飲酒運転”、街中で見かける“路上生活者”、高齢者の命を脅かす“孤立””孤独死”」(提言書)など、こころの健康の危機といえる状態になっています。呉秀三先生が「わが国十何万の精神病者はこの病を受けたるの不幸のほかに、この国に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」と述べられてからすでに92年が経過しました。100年が経過するまでに、この言葉が過去のものであると言えるような精神保健および福祉の改革が実現することを、切に願っているところです。
平成22年11月
こころの健康政策構想実現会議共同代表 岡崎祐士
(東京都立松沢病院)